こんにちは人事の夏沢です!
人事にまつわる様々なことを書かせていただいておりまして、人事の本音、人事の舞台裏、給料や出世のポイントなどについて長年にわたる企業人事の経験という観点でブログを書いております。
さて、今回は「ワークライフバランス」についてです。
法的な整備が進む働き方改革への対応やコロナ禍により半ば強制的に普及が進んだテレワークによりワークライフバランスを改めて考える機会も増えていることと思います。
しかし、このワークライフバランスの本質はなかなか曲者です。
ワークライフバランスを人事の視点で説明
ワークライフバランスとは「仕事と生活の調和」のことで、ほとんどの方がすでに知っていることと思いますが、そのワークライフバランスを人事の視点で考えてみたいと思います。
なぜかといいますと、ワークライフバランスは人事の業務と関連性が高いからです。
仕事と生活の調和の乱れを原因に次のような問題が生じる可能性があると言われています。
時間の大半を仕事に費やす長時間労働が心身の健康を害する
仕事のために私生活を犠牲にして心身に疲労が溜まり、うつ状態になってしまう
最悪過労死にいたる可能性もある
健康面だけでなく家庭や友人知人関係との調和も取りづらくなってしまう
ワークライフのアンバランスは人の生活を良くない状態にしてしまう、その原因が仕事に要する時間と私的時間のバランスに係る問題であるということであれば、その解決策を講じることは労務を主管する人事の担当業務に直結しているということになります。
ワークライフバランスと過重労働
ワークライフバランスの本質を捉えるにあたり、過重労働という観点でワークライフバランスを考えて見たいと思います。
過重労働を防止するための施策として一般的に次のようなことはほぼ全ての会社で行われていると思います。
残業時間の把握
有給取得率の把握
これらのことは、過重労働についての施策のためというよりは、法定上把握が必要になっていることや給与処理にも必要になることから把握が必須というものです。
一方、過重労働を防止するための施策は会社ごとに任意で様々なやり方があります。
仕事があまり好きでない方は仕事=私的時間を邪魔する時間と捉えがちです。
しかし、仕事と私生活は互いに相反するものではありませんよね。仕事は賃金を得るための生活の糧であって、生活を支えるために必要です。また、仕事は賃金だけのために必要というものではなく、充実した生活の糧、つまりやりがいや生きがいと感じる人も少なくはありません。
仕事をしなければ収入がなくなり経済的に困窮することになりますし、社会的な孤立を招く可能性もありますから、仕事=私的時間を邪魔する時間とは限りません。結果として、仕事時間と私的時間の調和が取れると双方の充実に繋がるよねという考えにいたる訳です。
私生活の充実によって仕事がはかどりうまく進む
仕事が順調にいけば私生活も充実する
このように生活と仕事の調和による好循環こそが目指すべきワークライフバランスということになります。
そうした時に悪となるのが過重労働です。仕事時間=労働とすると労働そのものは前述のとおり必要です。しかし、これが過重であるとバランスが崩れることになる。生活と仕事の均衡を完全に同じに保つことは困難だと思いますが、仕事が過重になることはいけません。
そしてここで考えたいのはなぜ過重労働が発生するのかについてです。
過重労働が発生する理由
仕事が多くて終わらないから
仕事の内容が混み入っていて時間を要するから
代表的な理由はこの2つ。これらの解決は個人による工夫もあるかもしれませんが、少なくとも組織や人事としても取組むべき事柄です。
ワークライフバランスの本質とは
ワークライフバランスについて本やサイトで調べてみると「仕事と私的な時間のバランスが取れないことではないんだ」という説明になっています。
ワークライフバランスの真の意味として説明がなされている内容を要約すると次の様な内容です。
私的な時間をきちんと確保することで
プレイベートでのスキル向上
↓
心身のリフレッシュが出来てそれが仕事の効率に繋がる
↓
やる気も出て仕事がはかどるからサクサク仕事が終わる
↓
残業も減るから過重労働にならない
「私生活の充実によって仕事の効率が上がり短時間で成果が出せるから、プライベートに使える時間も多くなるという好循環なんだよ。」というのがワークライフバランスの真の意味だという説明がなされます。
つまり、ワークライフバランスとは単純に仕事とプライベートの物理的な時間の多い少ないではないとの解釈がされています。
しかし、それって本当に多くの一般的な企業に通じる概念でしょうか?ただの理想論になっていないでしょうか?
人事の現場におけるワークライフバランスのリアル
ここからが、人事の本音と現実です。
ワークライフバランスが仕事時間と私的時間についての量のバランスであるという誤解は生じがちです。例えば次のようなものはある種、誤解も含んでいます。
仕事時間と私的時間をはっきり分けることがワークライフバランス
平均残業時間を〇時間から〇時間に減らしたのでワークライフバランスが向上した
仕事8時間、私的時間8時間、睡眠8時間が均衡だ
これらが誤解を含んでおり、真のワークライフバランスが仕事と私生活を調和させることで得られる相乗効果や好循環であるということを理解した上で人事の現場のリアルを書かせていただくと、ワークライフバランスの概念は多くの企業にとって理想論に過ぎないというのが結論です。
過重労働が発生している人のほとんどが好きで過重労働をしている訳ではありません。やむを得ずそうなっている環境。そしてその問題は当然会社は把握しています。理由は様々だと思いますが最もありがちなのは次のような理由です。
慢性的人手不足
特定の人に業務が付いてしまっていて他の人が手を出せない
こんなところでしょうか。
まず、このような問題を抱えていてる企業の場合は、ワークライフバランスを本気で考える議論に行きつきません。その前に解決すべき課題が山積しているからです。
ワークライフバランスの前に就業時間や休日のバランスが取れていない会社はいくらでもあります。その会社を一言でダメと片付けることは出来ません。それぞれの会社にも経済的、環境的事情があるからです。つまり、ワークライフバランスに着手する以前にその他のバランスにも問題を抱えている場合がほとんどであるという現実があるということです。
「ワークライフバランスを整えたら残業が減ってさらに生産性も高まりました」なんてことは現実にはなかなかないのです。
慢性的に過重労働が問題になっている企業でその第一の解決策を「ワークライフバランスを整えれば業務効率が向上し過重労働が減る」とするケースは極めて稀であると思います。
ワークライフバランスの理想と現実の乖離
会社案内や経営方針上は、ワークライフバランスを重視しています的なことを高らかに掲げている企業でも実態が伴っていないケースや社員はそう感じていないというのは珍しくないと思います。
所定労働時間を短くしたり、残業を減らしたりがワークライフバランスだという勘違いから始まり、私的時間でスキル向上や業務効率に資する行動をしているかの裏を取ることが難しく、私的時間が増えたことが生産性向上に必ず繋がる訳ではないということは何となくみんなわかっていながらも語られるワークライフバランス。
そしてこのワークライフバランスへの取り組みとして挙げられる具体例といえば以下の様なもの。
代表的な取組み例
・産休育休の適切な支援
柔軟な働き方の提案
人材育成
短時間勤務制度
フレックスタイム制度
テレワーク
長時間労働の削減
福利厚生の充実
もはや多くの企業が導入していることばかり。
でも、「当社は、ワークライフバランスが最適です」と言える企業は少ない。
つまり、ワークライフバランスの概念や定義が残念ながら現実と乖離している部分があると言わざるを得ません。
最適なワークライフバランスは人事を悩ませる
ワークライフバランスの難しさは、人により最適なバランスが異なるということ、そしてその人が所属する会社により考える最適なバランスが異なることです。
ある人は仕事6:プライベート4のバランスが丁度いいと感じるかもしれませんが、所属企業が考える最適バランスが仕事7:プライベート3であれば当事者にとっては自己研鑽に努める時間が足りない、モチベーション上がらないなどの感情が生じます。逆もまたしかりで私的時間を多くし過ぎても仕事時間がもっと多い方が生産性を高められると考える人にとっては最適バランスにはなりません。
つまり、ワークライフバランスは言葉上の概念や定義は理解して「そうだね、大切だよね」と共感を得られながらも、各企業や各個人で共通の解を持つことがかなり難しいのです。
企業人事の筆者としても上記に挙げたような取り組みは全て導入済み、福利厚生なんかはかなり充実させていますが「最適なワークライフバランスですか?」と問われればYesとは答えません。回答としてはせいぜい「なるべく多くの社員のワークライフバランスが最適になる様に取り組んでいます」といったところでしょうか。
ワークライフバランスという言葉がかなり一般的になったことから「バランスがいい?悪い?」みたいな議論にもなりがちなのですが、人事の現場の本音と現実を言えば、一概に良い悪いでは語りづらいのがこのワークライフバランスです。