こんにちは人事の夏沢です!
企業人事の本音と現実をテーマとしています。
人事にまつわる様々なことを書かせていただいている現職の人事部門マネージャーです。
【筆者について】企業での人事部門を10年以上経験しています。
採用、研修、評価、給与、社保など人事系の実務は網羅しておりまして、僭越ながら人事についての経験は豊富であります。
制度設計や企業合併でも人事の実務を経験しています。
今回は障害者採用について書いてみたいと思います。
人事の担当業務の中で花形といえば新卒採用というイメージでしょうか。採用といっても色々あります。
多くの人が「採用担当」と聞いたときにすぐにはイメージしないのが「障害者採用」なのではないかと思います。
しかし、人事の担当業務としてはとても大切な事項であると筆者は考えています。
今回の記事を読むことで「企業人事の大切な業務としての障害者採用のポイント」が分かると思います。
障害者採用の本音と現実とは
新卒採用や中途採用について、別の記事で触れていますが、それらとはまた別の枠組みとして障害者採用について人事の本音や現実を書いてみたいと思います。
まず障害者採用についての基本的なことに触れます。
障害者採用には法定雇用率というものがあり、記事を書いている時点では2.2%、今後2.3%に上がる予定があります。
つまり従業員が1,000名の会社であれば障害者の方を1名増員すれば法定雇用率を満たすということです。
この法定雇用率の達成、未達成についての罰則はありませんが、障害者雇用納付金というものがあり、不足人数につき月額50,000円の納付金が徴収されることになります。
早速、この序盤で重要かつ複雑なことに触れてますのでもう少し補足しますと、障害者雇用促進法に罰則規定はあるんですね。しかし、これは法定雇用率の未達についてではなく、「障害者雇用状況報告書」や「障害者雇用納付金申告書」を提出しない、または虚偽の報告をするなどした場合は罰金が科せられるというもの。他にも障害者雇用納付金の対象事業主で、法定雇用率を達成せず一定の条件に当てはまる事業主には、ハローワークから「雇入れに関する計画」の作成命令が出され、これを提出しない場合もやはり罰金が科せられるという内容などがあります。
このような規定があるため、つい法定雇用率未達=罰則というイメージを持たれやすい側面があります。
また、逆に障害者雇用人数が超過していれば障害者雇用調整金、報償金という仕組みがあり一定の金額を受給することが出来ます。
企業が障害者を採用し就業してもらうには、様々な設備や相談員の配置など経済的な負担が生じますので、障害者雇用が充足している企業と不足している企業との間の経済的なバランスを取るためにこのような制度になっているとのことです。
このブログでは、企業人事の本音や現実を長い人事経験に基づいて書いていくというのを本旨としていますので、障害者採用の現実的な情報として参考になると思われる企業人事目線での障害者雇用についてを以下に書いていきます。
障害者採用を行う理由
そういう訳でここからが障害者雇用に関わる人事の本音と現実について。
企業が障害者雇用を行う理由は以下の2点です。
障害者採用を行う理由
社会的責任を果たすため
法定雇用率を達成するため
「障害者雇用は社会や企業が共同で果たしていくべき責任である」という理念のもと制度の意義を正しく理解して雇用を推進していくことが大切ですという様なことが言われます。
それはもちろん正しくて否定されるものではないのですが、人事の本音を言うと重要視しているのは法定雇用率達成であるのが現実です。社会的責任や社会的な協調、協力といった観点ももちろんあります。それでもやはり法律で雇用率が定められ、企業は昨今のコンプライアンスの観点からもどうしても法定雇用率を最大限意識しての動きにならざるを得ません。
法的雇用率を満たしていない企業が障害者雇用納付金を支払っても、義務を果たしたことになる訳ではなく、未達成状態の規模や期間によりハローワークから指導を受けることになったり、企業名を公表されたりする可能性がある訳です。
法定雇用率を意識しているからこそ障害者採用に力を入れるという現実は、企業の人事にとってはしょうがないことだとは思います。
障害者採用で重要なこととは
いずれにしても障害者雇用をするために色々な対応をしていく必要があります。
採用する前に整える必要があることを挙げます。
障害者採用で整えること
業務の切り出し(やってもらうことを整理する)
安全配慮のための設備準備
フォロー体制の整備
一言に障害者採用と言っても、障害の内容や程度は個人で異なりますので、採用選考に応募いただいた段階でしっかり話し合い、障害の内容等をしっかり把握する必要があります。
長く勤めていただくためにも企業側も応募者側もカッコつけずに企業は環境を整備することや適切な業務依頼が出来るのか、応募者側の障害者の方は対応出来る環境や業務内容なのか、これらをお互いにきちんと話したり、確認したりすることが特に重要だと思います。
企業と障害者の方の双方に無理のない障害者採用とは
選考等の結果、晴れて採用となる訳ですが、残念ながら様々な理由によりミスマッチだったということは起こります。
早期の退職ということになれば企業にとっても障害者の方にとっても残念なことです。
現実的には、法定雇用率達成企業の割合を調べていただければ障害者採用と定着の難しさが伝わるかもしれません。
その様な中で、筆者がいいなと思っている一つの選択肢が在宅勤務です。
在宅で出来る業務を切り出せれば、障害者の方が慣れている安心な環境(自宅など)で業務に取り組んでもらうことが出来ます。
業務に関わる経費(設備や光熱費)や指示の出し方、日常的なコミュニケーションの取り方などの課題はありますが、安心、安全という部分はクリアしやすくなります。
障害の内容により事務的な業務、現場の業務、在宅勤務などを組み合わせて企業と障害者の方の双方に無理のない障害者雇用を実現することが理想です。
コロナ禍により在宅勤務の普及が一気に進みましたが、筆者の会社ではその前に障害者の方の働く環境としての在宅勤務を認め、特定の業務に従事してもらう取り組みをすでにしていました。もちろん障害者の方に在宅勤務をしていただくための環境整備や諸々の調整事項はあるのですが、会社側と障害者の方が双方で合意できれば、オフィスや現場で業務に対応してもらうよりも働いてもらいやすい環境を整えることが出来ると確信し、導入にいたりました。実際に当社では問題なく障害者の方に在宅勤務をしていただけています。
ご興味のある方は、ぜひ独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構が発行している「在宅勤務障害者雇用管理マニュアル」をご覧いただくことをお勧めします。大変参考になると思います。
また、他の取り組みとして特例子会社やグループ算定特例についても、人事の本音や現実があり、特にグループ算定特例については実際の導入経験があるので、そのあたりも企業人事目線での本音と現実を書いてみたいと思いますが、それはまた別の機会にしたいと思います。
まとめ
一見、人事の花形のように思われる採用。しかも採用というワードからは「新卒採用」が一番イメージしやすいと思います。長い企業人事経験から思う率直な感想ですが、新卒採用って人事の諸業務の中でもかなりやりやすい項目です。簡単とまでは言いませんが、使用する媒体、展開する時期などがほぼ決まっていて、その中での競争やテクニックは大いにありますが、学生との出会いを楽しみながらある意味年間の定例行事として進めていくことができます。かなりやりやすい業務なのです。
一方、給与、社保、労務管理などは大変地味で裏方ですが、正直新卒採用よりももっと難しい部分がいくらでもあります。そういう意味では今回書いた障害者採用も新卒採用に比べて遥かに遥かに難しく、社会的責任、社会的貢献、法令遵守などの観点からも奥が深い人事業務の一つです。
障害者採用については本当であればそこに専門特化した担当者が社内にいることが望ましい分野です。そこまで手厚く整備出来ている会社は少ないのですが、それくらい重要な事柄であると認識しています。
企業人事の本音と現実をテーマにしている本ブログとしてはぜひ触れておきたい項目でした。
それでは今回はこのあたりで。ご参考にされて下さい。