こんにちは人事の夏沢です!
人事にまつわる様々なことを書かせていただいておりまして、時に人事の本音、時に人事の舞台裏、時に給料や出世のポイントなどについて、企業人事ならではの視点でブログを書いております。
就活、転職、給与、労務などはそれぞれカテゴリーを設けておりますのでぜひご覧ください。
【筆者について】企業での人事部門を10年以上経験しています。
採用、研修、評価、給与、社保など人事系の実務は網羅。
人事についての経験は僭越ながら豊富でありますよ。
制度設計や企業合併の実務も経験しています。
さて、そんなブログでありますが、別の記事で本来人事の担当業務ではないものの業務上一部関わってくる事柄としてコンプライアンスについて書きました。
その記事で、コンプライアンス違反をした社員への対応に触れました。
今回はコンプライアンス違反も含む、様々な理由による社員の懲罰について書いてみたいと思います。
本ブログでは、企業での人事経験に基づいた様々な本音を書いていますので、この記事を読むと「社員の懲罰についての企業人事の本音」がわかると思います。
懲戒処分の目的は企業の秩序を維持すること成り
記事の冒頭なので一般的な懲戒処分の種類に触れますが、懲戒処分とは何なのかを説明するのがこのブログの本旨ではなく、企業の人事が社員の処分を検討したり決定していく過程の本音や現実を書くことが本旨となりますので懲戒処分の説明は最小限に止めます。
懲戒処分の種類は、企業の就業規則で規定されるため企業ごとに多少の違いはありますが、一般的には戒告、譴責、減給処分、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などだと思います。
問題行動があった社員に対して正式な会社ルールに基づいて処罰を与えることで企業の秩序を維持することが目的です。
問題行動の当事者だけでなく、きちんと処罰することが他の社員の納得性や企業全体の規律を守ることに繋がります。
また、問題行動の内容が社内だけでなく社外にも及ぶものであれば、処罰の内容は社外の関係者からも注目されていますから、そのような関係者からも適正な処罰だと認めてもらえる程度のものにする必要があります。
避けるべきは、軽微な問題行動に対して重い処罰、重大な問題行動に対して軽い処罰をすること。
懲戒処分は、処罰するということより、軽重の判断が難しいものです。
では、企業の中ではどのように処罰の内容が決まるのでしょうか。
委員を招集せよ!開催される委員会の名は「懲罰委員会」
冒頭で書いたように就業規則で懲戒処分を規定していると思いますが、当然どんな問題行動にどの懲戒処分という細かい指定までは規定されていない場合も少なくありません。
なぜかというと問題行動の内容は非常にたくさんありますし、どうしても予期していない事も起こる訳で、その全てを就業規則の中に事前に表現しておくことが不可能だからです。結果、社員が問題行動を起こした場合、以下のような過程で処罰していくことになります。
社員を処罰する過程
①懲罰委員会の開催
②事実確認と調査
③関係者へのヒアリング
④処分内容の検討
⑤処分内容の決定
懲罰委員会は、設置が義務付けられている訳ではないので、企業ごとに言い方も懲戒委員会、賞罰委員会など色々です。また、懲罰委員会の機能も企業により異なります。
事実確認やヒアリングを行うための諮問機関なのか、懲罰内容の決定権限を持つ意志決定機関なのかは、企業により異なります。
筆者が勤務している企業では、諮問機関になっており、懲戒内容の決定権限者は社長になっています。
懲罰委員会がない企業では、総務部長や管理部門担当役員が中心になって、事実確認やヒアリングを行っていくケースもあると思いますが、やはり運用を定めた上で委員会として設置しておいた方がいいと思います。
懲戒権は濫用するべからず
なぜこのような仕組みになっているかと言うと、懲戒権が公正に行使されるためにしかるべき人が検討、議論、記録し、権利の濫用にならないようにするためです。
問題行動があると、「けしからん!」という感情に流され、ついつい処罰を即決したくなるかもしれませんが、事実誤認や懲罰の決定に瑕疵があると大変マズイですから、慎重に正確に進めていく必要があります。
ここからが、企業人事の本音と現実。
懲罰委員会の事実上の役割とは・・
正直、筆者も長年の人事経験により、懲罰委員会に事務局として複数回陪席しています。
どのような内容の問題行動であったかは伏せますが、軽いものから重いものまでありました。
この懲罰委員会では、事実確認の結果とそれに伴う懲戒内容の検討をしますが、結局どうなるかと言いますとほぼ間違いなく「弁護士に相談」という結論に行きつきます。
懲罰委員会の存在意義を見失うくらい「弁護士に相談」という結論になります。
だったら最初からそうすればいいじゃんと思うのですが、弁護士に相談する前に当事者たる企業で検討するという行為はさすがに必要だと思うので、本音を言うとただ問題行動の内容や時系列をまとめて「社内的にはこんな処罰を考えてますが」という所までまとめるのが懲罰委員会の事実上の役割です。
懲戒処分の内容が決まるその舞台裏
懲罰委員会に懲戒内容の決定権があっても実は同じです。
懲戒処分については、これまで多くの企業の事例で適法かどうか争われています。
つまり判例がたくさんある訳です。
懲戒処分については、懲戒権の濫用にあたるか否かについて法律的な判断が争われています。これら判例に照らし、自社で起きてしまった問題行動への処罰のレベルは何が適切か。
これは正直企業の委員会が決めるというよりは法律の専門家の仕事です。
逆に問題行動を起こし、処罰されるが側の社員からすれば、企業の懲罰委員会で検討され下された処分の内容は、委員会や担当が適当に決めたものではなく、弁護士見解に基づく内容である可能性が高いということです。
もちろん全てがそうではなく、懲罰委員会もなければ、弁護士への確認もしてないというケースもあるとは思いますが、懲戒処分を決める裏では多くの場合、懲罰委員会で検討したり決定しているように見えて、実は法律的な判断を弁護士に求め、根拠や裏付けをもった内容になっているのです。
逆に、ふと集められた懲罰委員会の委員や事務局でそのような法的根拠を判断できるはずもないのです。
「弁護士から懲戒処分は重いと思う」と言われたのに、「いや、最も重い懲戒解雇だ!」とはなりません。
だって強引に誤った判断をして労働争議になったら負ける可能性が高い訳ですから。
今回は、企業内で発生した問題行動に対して、どのように懲戒内容が決定されているかについての舞台裏を書いてみました。
ご参考にされて下さい。