こんにちは人事の夏沢です!
人事にまつわる様々なことを書かせていただいておりまして、時に人事の本音、時に人事の舞台裏、時に給料や出世のポイントなどについて、企業人事ならではの視点でブログを書いております。
就活、転職、給与、労務などはそれぞれカテゴリーを設けておりますのでぜひご覧ください。
【筆者について】企業での人事部門を10年以上経験しています。
採用、研修、評価、給与、社保など人事系の実務は網羅。
人事についての経験は僭越ながら豊富でありますよ。
制度設計や企業合併の実務も経験しています。
さて、今回は「エンゲージメント」について。
人事界隈では一般的なワードですが、他の職種の方には全く一般的でないワード。
しかし、このエンゲージメントについて知ることは会社員の方には役立つ部分があります。
本ブログでは、企業での人事経験に基づいた様々な本音を書いていますので、この記事を読むと「企業人事の目線から見たエンゲージメントの本音と現実」がわかると思います。
エンゲージメントとは何か。ESとエンゲージメントの違い
さて、人事の分野でエンゲージメント(Engagement)という言葉があります。
人事に関わる方は知っていると思うのですが、正直人事の分野以外の方は、ほぼ聞いたこともないのではないかなと思います。
ES(従業員満足度)に割りと近い概念ではあるのですが、人事分野でのエンゲージメントの意味するところは「社員の会社に対する愛着心や思い入れ」と言われています。
さらにこれにもう少し説明を加えると「社員と組織がお互いに連動して貢献したり、成長し合える関係性であること」などと言われたりもします。
エンゲージメントが高い組織とは、社員が企業や組織を信頼し業務に取り組むことから生産性が向上し、それにより企業の成長も加速するという双方にとってメリットのある関係性を意味しているなんて表現されたりもします。
正直すでにこの時点で理想論の様に感じる部分がありますが、一旦ES(従業員満足度)とエンゲージメントの違いについて触れておきます。ES(従業員満足度)は必ずしも企業の業績と連動してる訳ではなく、福利厚生や職場環境が整っていてES(従業員満足度)が高いとしても必ずしもそれが企業の業績向上に直結したり、社員の能力向上に貢献するとは限りません。つまり、ES(従業員満足度)はある意味金(かね)で解決することも出来ますが、エンゲージメントは企業と社員の相互作用による成長という概念でありますので、帰属意識や行動意欲といった金(かね)では解決出来ない社員の気持ちや意識が培われるものでなければならない、という違いがあると言えます。
エンゲージメントが経営課題になっている会社を知ってますか?
さて、
ここからが企業人事の本音と現実について。
社員の帰属意識や行動意欲を高めるための方法って何でしょうか。
よく言われるのが、
社員の意欲を高める一般的な方法
人事評価制度の改善
適切な人材配置
社員教育
リーダーシップ醸成
キャリアアップ制度
など色々挙げられるのですが、これらが「タレントマネジメント」とか「パフォーマンスマネジメント」といった人事分野以外では全く一般的に認知されていない言葉や概念となって語られたりして、そのような何とかマネジメントとか何とかアセスメントを導入することが重要なのです!みたいなことが書いてあったりするのをよく見かけます。
筆者も人事ですから、そこに書かれていることが正論であることは分かったりもするのですが、そんな新しい人事の概念に飛び付く企業ってごく僅かであって、大部分の企業は昔ながらの人事制度を引きずっていて、「タレントマネジメントが大切だからこれを導入しよう」という動きをする企業よりも「従来から運用している人事制度が古いから刷新しないとなぁ」という極めて現実的な課題に直面している企業の方が圧倒的に多いのです。
「エンゲージメントは重要な経営課題だ」なんて書かれたりもしますが、ご自身が勤めている企業の経営陣からそのコメントって聞いたことありますか?
重要な経営課題って他にもたくさんあってエンゲージメントなんてほとんどの企業で経営課題のレベルでは語られていないと思います。
理由は簡単。繰り返しになりますが、そんな新しく作った概念を経営課題とする以前に、従来から引きずっていて解決できていない課題なんていくらでもあるからです。つまり、エンゲージメントを含む新しい概念や課題まで行き着かないのが多くの企業の現実なのです。
このエンゲージメントを含め「人事業界あるある」としまして、人事に関わる新しいサービスや手法を自社商品として提供することを目的に、ついつい横文字のNewワードを作り出して、さも新しい概念のように、さも経営課題レベルで重要な代物なんだという打ち出し方をしてしまうんですね。
ところが現実的にはそのような新しい概念やサービスを経営課題として認識して、その課題解決に着手する企業なんてごくごく一部。結果ほとんどのワードやサービスが定着することなく姿を消します。
少し話がずれましたが、そのエンゲージメント、この概念は定着するかしないかのギリギリのところといった印象です。
エンゲージメントを高めるために必要なものとは
社員の帰属意識や行動意欲を高めることが、生産性や競争力の向上、人材の定着に資するということは否定しないどころかそのとおりであると思いますが、結局エンゲージメントが高いといえる組織にするためにはES(従業員満足度)と同じで企業の総合力がものをいうというのが筆者の結論です。
社員は子どもではありませんから、意識改革とか企業文化の醸成とか、綺麗な言葉だけ並べても単純には応じません。
必要なのは綺麗事や理想論ではなく実弾としてのメリットです。
つまりその企業で働くことの総合的な納得性が必要で、何に納得するのかは、社員により異なる訳でありまして、ある人は待遇、ある人はオフィスの立地、ある人は評価制度だったりするかもしれません。
つまり企業の総合力です。
総合的に「きちんとしている」といってしまえば身も蓋もない稚拙な表現なのですが、しかしつまりはそういうことなのです。
エンゲージメントという概念の本音と現実について
きちんと社員にメリットがあり、社員も企業に業務でしっかり貢献するという関係性は、何も新しい考え方や概念ではなく、きちんとした企業とそこで働く社員の間に自然に形成される関係性に他なりません。
それをエンゲージメントという表現で少しアカデミックな要素も入れつつ、人事業界の人が「重要な経営課題」にまで祭りあげている。それがエンゲージメントの現実と正体です。
誤解のない様に書いておくと社員の帰属意識や結束が重要でないということを意味していません。
ただ、社員と企業の関係性の話しですからその概念そのものに新しさはなく、社員と企業がお互い高い納得性を感じられる環境であることが大切だよねという極めて常識的なことを「エンゲージメント」という単語にしただけのことです。
そしてそのエンゲージメントを向上させるために必要なことは、繰り返しになりますが企業の総合力であり、総合的にきちんとしている企業が最後は勝つということに過ぎません。つまりそこに目新しさは全くないのです。
まとめ
この「きちんと」が肝でありまして、そこにはコンプライアンスやガバナンスといった企業の根幹として必要となる要素はもとより規程類や組合、委員会など、会社という組織が存在し、維持され、発展していくために必要な秩序とルールが根付いている環境かどうかというのを一言で表現して「きちんと」なのです。
この「きちんと」している企業というのは、結果的にフルスコープ監査の対象企業であったり、株式の上場企業であったり、グループ企業の中核であったりするから「きちんと」している訳で、そのような環境がその会社を「きちんと」させているとも言えます。結果的に「きちんと」している企業に在籍する社員は「きちんと」せねばならず、それが統制のとれた組織の一員としての納得性や満足感となり、会社への愛着心や思い入れに繋がる、つまりエンゲージメントが高いというところに繋がっていくことになります。
裏を返せば「きちんと」していない企業の社員のエンゲージメントが高いはずがないのです。
経営課題としてのエンゲージメントは、実は会社という組織自体を「きちんと」させることが解決策であります。会社がきちんとするということは思いのほか重要なことなのです。
エンゲージメントという概念がイマイチ一般的に浸透していかない理由や事情についてを書いてみました。今回はこのあたりで。
ご参考にされて下さい。