こんにちは人事の夏沢です。
企業人事の本音と現実をテーマとしています。
人事にまつわる様々なことを書かせていただいております。
就活、転職、給与、労務などはそれぞれカテゴリーを設けておりますのでぜひご覧ください。
筆者について企業での人事部門を10年以上経験しています。
採用、研修、評価、給与、社保など人事系の実務は網羅。
人事についての経験は豊富です。
制度設計や企業合併も人事の実務を経験しています。
今回の記事では、人事のある指標について書きます。一見、難しそうに見えるかもしれませんがそんなことはありません。自分の勤める会社の事、転職を考えている方であれば今後の企業選びに役立つ情報となりますのでぜひご覧くださいませ。
労働生産性と労働分配率
人事の分野で代表的な指標があります。
労働生産性と労働分配率というものです。
今回の記事ではこれらのことを書きますが、いつもどおり人事担当者としての本音と現実が主題ですので指標の説明もとにかく解りやすく簡略的にしたいと思います。その上で、これらを知ることであなたが働く環境がめぐまれているのか、そうじゃないのか。所属する企業がきちんとあなたや社員を処遇してくれているのか、そうじゃないのかがわかります。
これを知ることで益々頑張ろうとなるのか、あるいは転職のキッカケになるのかはわかりませんが、いずれにしても会社員として働く上で知っておいて損はありません。
労働分配率とは何だ
あなたの会社が生み出した価値に占める人件費の割合です。
つまり、あなたの会社も物を作ったり、売ったり、貸したり、サービスを提供したり、仲介したり、受託したりしているはずです。
内容は様々ですが、いずれにしても企業である限り社会に対して何らかの付加価値を提供しているはずです。そうでなければ営業できていないはずですから。
そういう訳であなたの会社が生み出した価値を付加価値と表現しまして、その付加価値のうち、いかほど人件費として社員に分配されたかが労働分配率の考え方です(付加価値の求め方など専門的な説明はここでは省略です)。
押さえるべき労働分配率のポイントは次のとおり。
労働分配率のポイント
「労働分配率が高いからいっぱい分配されていて恵まれている」というものではない
「労働分配率が低いから良い処遇をされてない」と思っても同業他社と比較が必要。とにかく同じ業種内で比較すること
労働分配率は高過ぎても低過ぎてもヤバい
労働分配率の改善策は企業の体質改善や経営計画に直結する
説明していきます。
労働分配率が高い、つまり沢山人件費に分配されている=待遇が良い、と繋がりそうですがそうではありません。あくまでも付加価値に占める人件費割合ですから、付加価値の構成の中でもともと人件費率が高い業種(例としてサービス業)は、人が手を動かしたり、行動することで価値を提供している可能性が高く、他に物や材料を仕入れたり、大きな設備や機械や工場が必要ということでもない訳ですから、そもそも人件費率が高い訳ですね。極論すれば「付加価値のうち大部分が人件費です」ということもあり得ます。
逆にもの凄い立派な設備を持ち、超ハイテクシステムにより少人数で物凄い価値を社会に提供していた場合、付加価値に占める内訳は、設備に関わる費用(減価償却)が最も高くなっており人件費は割合としては低く見えるかもしれません。
でも、極論すれば「付加価値のうち大部分が減価償却費で、労働分配率は低く見えますが、社員が数名しかいないので平均年収は滅茶苦茶高いです」なんてことはあり得ます。
あくまでも業種により、適性な労働分配率というものがあり、その適性水準、いわば業界平均値と比べてどうなのかが重要な訳です。同業他社の労働分配率と自社の労働分配率を比べるのが、処遇比較のポイントです。
しかし、
高いから良いという訳ではないという側面についても補足しなくてはなりません。労働分配率が多い=人件費への配分が多い訳ですから次のパターンが考えられます。
労働分配率が高い理由
一人当たりの給与が高い
一人当たりの給与は高くないが人数が多い
つまり、やっている仕事に対して給与が無駄に高い(生産性悪い)場合ややっている仕事の量に対して人数が無駄に多い(生産性悪い)場合が考えられます。
このような視点から労働分配率を見ることで、その企業の体質や強み、弱みを人軸から判断することができます。
労働生産性とは何だ
続いて労働生産性について。
これもなるべくシンプルに説明します。
あなたの企業が生み出した新しい価値(付加価値)を社員数で割ったものです。つまりあなたの企業の社員一人当たりどれだけの付加価値を生み出したのかという指標となります。全く同じ付加価値を生み出す企業が2つあったとしても1つはたくさんの人数で、もう1つは少人数だったとすると、当然少人数の方が一人当たりではたくさんの付加価値を生み出している訳ですから「生産性が高い」という考え方になります。
待遇改善が期待できるかがわかっちゃう
労働分配率と労働生産性を簡単に説明したところで、ここからが人事担当の本音と現実。
あなたの企業の労働分配率が同業他社と比べて低い場合、経営方針として人件費を意図的に抑えられています。今後も大幅な昇給や待遇改善は期待できないです。経営層としては、人件費以外に費用を掛けたい、または余裕があっても人件費に回さないという意図を少なからず持っています。
これを変える手段がいくつかありますが、残念ながら個人の努力でどうにかなるものではありません。
以下に挙げてみます。
労働分配率を上げるには
経営方針を変えてもらう
人件費アップの交渉をする(労使交渉)
内実が分かっている人事担当が経営層に掛け合う
そもそもこれらのことがやれなかったから労働分配率が低くなっている訳で、こういう手段が講じづらい環境である可能性が高い訳ですから今後の抜本的改善は期待できません。
経営層と喧嘩できる人事はいるか
人事担当者の本音でいうと、
・経営層とケンカしてでも社員のために改善を主張する
・経営層と同じ目線で人件費の抑制を正と考える
に別れます。
社員にとっては、経営層と戦ってくれる人事は頼もしいですが、人事担当としては、人件費をジャブジャブ増やさないというのも必要かつ重要な視点です。
このあたりは、あなたの会社の経営層や人事担当を頭で想像すれば、「あぁこっちのタイプだな」というのが、すぐに分かるのではないでしょうか。
そして、
経営層も人事担当にも処遇の改善、労働分配率の改善、労働生産性の向上についての施策を期待できないと判断したとします。そうなると転職かとなりがちですが、一旦以下のことについて考えてみましょう。
一旦考えてみよう
・仕事内容(質と量)に対して決定的に低い待遇か
・同業他社と比べて決定的に低い待遇か
・労働時間に対して決定的に低い待遇か
多少なりとも現在の環境に納得いくポイントがあるなら、それとのバランスを考えることをお勧めします。
納得がいかないポイントが多い場合は、いよいよ次の選択肢を考えることになります。
次に考えるポイント
・転職して待遇を上げる
・転職はせずに昇格や昇進を目指す
・我慢する
この選択肢のそれぞれにメリット、デメリットがありますが、いずれを選択したとしても、筆者が書かせてもらっている人事の本音や現実を読んでいただくことにより、微力ながら力添えが出来ると思います。これらのメリット、デメリット、そして重要な転職する時に知っておくべきポイントについては別記事にてしっかり書きますのでしばしお待ちください。
あなたの会社の方針はいかに
今回の記事のまとめとして、
自社の労働分配率が低いからという理由で、転職を決める人は少ないと思いますが、転職を考えるキッカケには大いになり得ます。まずは自社の労働分配率を調べてみましょう。
調べ方は簡単。
人事担当者にそのまま「うちの会社の労働分配率を教えて」とストレートに聞けばいいです。人事担当者が社員に開示しないのはおかしいので遠慮しなくて大丈夫です。仮に把握していなくて回答できないということであればそれはそれで人事として機能していません。このような場合は、処遇改善はあきらめましょう。逆に人事担当者が自社の労働分配率をサッと開示してくれれば、同業種の平均労働分配率はネットですぐ調べられますのでこれで素材は揃います。
さて、あなたの会社の人件費に関わる経営方針は?