こんにちは人事の夏沢です!
企業人事が本音と現実を書くことを本旨としている当ブログ。
筆者は企業人事として採用や人材育成、人事制度の構築など総合的に実務に携わって来た人事部門マネジャーです。
綺麗ごとや理想論が語られやすい人事界隈なのですが、実務を理解している企業人事の管理職の視点で様々な本音と現実を書いております。
今回の記事は、「限定正社員の限定性と能力についてのよくある誤解」という内容です。
働き方が多様化している中で会社員も【正社員】という一言では表現できなくなりました。その中でも今回は限定正社員の限定性について生じやすい誤解やそもそも何が限定されているのか等についてを書いて参ります。
正社員も多様化する時代。例えば限定正社員という存在
少し前までは雇用区分を分けるとすると正社員、契約社員、パートタイム社員、アルバイト、派遣社員、嘱託くらいの区分が一般的でした。現在は、有期契約社員の無期化(5年超社員の無期転換))なども加わり、社員の態様も多少複雑になりました。
その中で今度は正社員という区分がさらに細分化しています。今回はそんな新しい正社員について。
本稿においては限定正社員と表現することといたします。正式な用語ではありませんが、便宜上ですね。
まず、正社員とは何かということに触れます。一般的には次の事項の全てに該当する社員のことです。
全てに該当すると正社員
労働契約の期間の定めがない
所定労働時間がフルタイム
直接雇用である
いわゆるみなさんが正社員と聞いて想像する内容であると思います。
正社員以外の雇用区分の実態や変遷
一方、日本の場合、この正社員という区分の人は終身雇用などとも表現され、基本的には正社員で入社すれば原則定年退職までは同じ会社で努めることができるし、ファインプレーはなくてもそこそこにこなしていれば年功序列的な要素によって半自動的に昇進していくというのがモデルケースとなっていました。
そんな正社員が当たり前の存在だったのですが、各企業の経済的理由や人事政策上の理由や合理的な人員構成などに対応していくなかで正社員のコスト(つまり人件費)が企業の負担になってきたんですね。
そういうことから主にコストを縮減することを意図した別の社員区分として契約社員という非正規区分の社員がグーンと増えて来た時代があります。
パートタイム社員も非正規ではあるのですが、こちらはパートタイムというくらいですからフルタイムではなく特定の時間のみ就業するスタイル。これは多くの場合働く側の時間的な制約により特定の時間しか仕事ができないという理由がほとんどなので昔も今も働き方の一形態としては必要な区分です。
同じ非正規社員でも契約社員は、フルタイムかつ実態は正社員と業務内容が変わらないのに有期雇用であり、かつ正社員と待遇差もあるという問題が顕在化してきます。多くの場合、契約社員の方は本当は正社員がいいのだけど仕方なく契約社員でやっているという場合がほとんどです。中にはご自身の選択や何かの都合により契約社員でいるという場合もありますが、拘束時間が正社員と同じで業務内容もそれに準ずるようなものである場合は基本的には正社員の方が何かと恵まれていることから正社員になりたいと考える契約社員が多い訳です。
契約社員を正社員にするかどうかについては、基本的には各企業の運用に委ねられて来ました。
ところが、2013年に改正労働契約法が施行され、長期間働いてきた契約社員やパートタイム社員も本人が希望すれば無期雇用(正社員とは異なる)に切り替えなければならなくなりました。
具体的には有期契約社員の方が、契約更新を経て5年を超えて継続勤務していれば無期化を希望することが出来ます。
企業側は5年間もその社員を継続雇用してきた訳ですからその人と成りは充分に把握していて、かつその人にやってもらう必要性がある業務があるからこそ長期間の雇用が成り立っていたということになりますから本人が希望をした場合は原則無期化することになります。
限定正社員の限定性について
有期雇用社員の無機化の議論の中で限定正社員の導入が議論されるようになりました。
つまり、正社員の区分をさらに細分化して限定正社員という選択肢を設けてはどうかというもの。
限定正社員というくらいですから何かが限定されているんですね。どんなことを限定するパターンがあるかというと
限定正社員の限定性の例
勤務地限定正社員
職務限定正社員
勤務時間限定正社員
これらを組み合わせることでさらに色々なパターンの限定が出来上がります。
つまり総合職と言われる勤務地や職務も総合的に何でも応じますという働き方ではない多様な正社員がこの限定正社員です。
企業が限定正社員を導入するメリットとしては以下の様なことが挙げられます。
限定正社員導入のメリット
人材を確保するため
社員の定着を図るため
ワークライフバランスの支援
限定正社員は、正社員という安定した雇用のもとで勤務地や勤務時間まで自分の希望に近い条件下で働くことが出来るということになりますが、当然デメリットもあります。
限定正社員については、あまりデメリットをはっきりズバズバ書いているケースは多くない気がしています。
でも、やっぱりデメリットってありますよ。
そうじゃないと全員限定正社員になりますよね。
一番わかりやすく、かつ重要なデメリットは待遇です。
ここからは何も限定されていない正社員を総合職と表現することにします。
総合職と限定正社員とを比較する場合、総合職の方が待遇が上です。ここに差がないと総合職は納得しません。
また、ここでいう待遇の中には給料だけでなく昇格や昇進も含みます。ひとつずつ補足してみます。
給料について
一般的には同一労働同一賃金と言われることが多いようですが、いわゆる均等均衡待遇の観点から限定正社員の限定性による合理的な待遇差を持たせることは問題ありません。
ただ、限定正社員よりも総合職の方が大変だからとか感覚的な理由は当然だめです。
どのような限定性についてどの程度の賃金差をつけるかを合理的に判断する必要があります。
例えば、地域限定正社員であれば就業する場所も決まっていて転居を伴う転勤はない訳です。一方、総合職は転居を伴う転勤がある可能性がある。この場合の住宅補助手当を考えた場合、会社としてどこの地域のどんな物件に住むかが会社の発令次第で決まることになる総合職への住宅補助額を多く設定するというのは合理的とされています。
金額の差についてはいくらまでならOKという明言は出来ないのですが相応の差は付けることが可能です。同様に働く条件面の違いに応じて合理的な説明が付けば給料で差を付けられますが、何のための手当なのか、限定正社員の限定されている部分についての待遇差として相応しい金額なのかを慎重に決める必要があります。
昇格と昇進について
昇格は格が上がること。例えば等級制度があるのであれば等級が上がること、ミッショングレードであれば高い役割等級に就くこと。昇進は役職が上がることとして続きを書いていきます。
総合職と限定正社員の間で昇格と昇進に差があること自体は問題ありません。総合職は文字通り職務に総合的に対応する正社員であり、総合職でないと対応することが出来ない役職があるならば、当然限定正社員をそのポジションに就ける訳にはいきません。
昇格(等級)についても同様で各等級に求められる能力がある訳で、職務に限定性のある正社員ではその等級に定義した内容に合致しないということは起こり得ます。
例えばある等級の能力定義が「AとBとCの職務を理解し総合的なマネジメントが出来ること」となっていた場合で、Aの職務に限定している正社員であれば等級定義と合致しないということになります。
総合職と限定正社員との間にはその限定分の差があっていい訳ですが、一般的には限定正社員から総合職への転換の選択肢や制度があることが望ましいとされています。
その選択肢があれば社員はまさに多様な働き方を自身の希望やライフプランに応じて選ぶことができる訳です。
ただ、この転換制度がなかったり、制度自体はあっても実質転換される見込みが少ない場合、前述の待遇差はデメリットとなり得ます。
つまり、いつまで経っても埋まらない待遇差として存在し続ける可能性がある訳です。
また、均等均衡待遇とは違う観点として、人材育成、能力開発について機会の提供に差が出ることはあります。
ここは企業人事の本音の部分ですが、限定正社員と総合職を比較すれば、中長期的な能力開発という意味ではまず総合職を優先して考える場合がほとんどです。そういう意味ではこれも限定正社員のデメリットの一つと言えると思います。
総合職と限定正社員の誤解
よくある総合職と限定正社員についての誤解に触れておきたいと思います。
限定正社員は地域や職務や時間が限定されている正社員ということですから、総合職と能力差があるという意味ではありません。
つまり、総合職の方が能力が高いとか、総合職の方が偉いとかそういう意味ではないのです。
総合職しか就くことができない等級や役職があるのは前述しましたが、同じ等級や役職に総合職と限定正社員がいる場合、そこに能力差はありません。
限定正社員の限定の内容が「能力」というのは聞いたことがありません。
しかし、会社内ではどうしても総合職社員が高い等級にいたり、総合職しか就けない役職があったりすることにより、ついつい総合職の方が能力が高い社員と捉えられがちなのです。
限定正社員の限定性はそういう意味ではありません。
繰り返しですが時間や地域の限定です。能力の限定ではないのです。
ちょっと本稿は長くなりましたので、今回はこのあたりまでとさせていただきたいと思いますが、限定正社員は今後ますます求められる働き方でありますし、導入にあたっては制度設計や運用面で留意点やテクニックもあるものですからまた別の機会に書いてみたいと思います。